訪れるlandmark

【昔話】きつね姉さま

むかしむかし、あったてんが、寒めぇー冬の夜、雪のぼそぼそと降る京ヶ瀬のある村のはずれを、一人の娘っこが歩いていたったって、その娘っこは、山吹の花の色のかくまきを着て、わらで編んだふか靴をはいて、深えー雪の中を村の方へと歩いていったと。

 

村外れの家まで来ると「今晩は、お晩なりました」 と声を掛けたと。「誰だね」入り口の戸を開けたれば、いとーしげな 娘が一人立っていて「すみません道に迷ってしまいました、雪が深くて もう一歩も歩けません、どうか一晩泊めて下さい」そう言うて娘っこはぺこりと頭を下げたと。

「それは難儀だのう、まあまあ入りなせえ、 俺とこは見た通りの一人もんで、なんでも構んねども、早よ入って 暖まりなせえ」そこん家は、若衆一人の家だったんだと、可哀想げだと 炉ー縁の火で暖めてやって、夕飯の残り雑炊を食わせて一晩泊めてやったんだと。

 

翌朝、あんにゃさが起きたれば、その娘っこは朝早よから起きて、ちゃかちゃかと 家中の掃除をして朝飯作ってたったと、朝飯が終わると、「泊めてもろうたお礼に 仕事手伝わせて下さい」と娘っこが言うて仕事始めたんだと。

 

たまげる程のはつめこきで、むしろ編んだり、俵編んだり、ふか靴作ったり、それはそれは働きもんだったと。何日経っても娘っこが出ていかねもんで、「いや、助かった、礼は一杯ことしてもろた、家の者が心配するすけね早よ帰りなせ」と言うたれば、

娘っこが顔真っ赤にして「私も一人もんで誰も心配する人もおりません、どうか私を嫁さんにしてください」と言うたんだと。

 

あんまり娘っこが頼むもんで嫁にする事にしたんだと。 それから何年かして、可愛い男の子が生まれたんだと。仙次と名前を付けたんだと、可愛うて、可愛うて、田んぼも、畑も連れて行くし、

 

春は庭に奇麗な桜が咲くと、むしろを敷いて、乳倉出して、仙次とあんにゃさとあねさの三人で 花見をして日向ぼっこして、それはそれは幸せに暮らしていたんだと。

すっかり村衆になって、しゃべりも同じになったんで、だーれも気にしねい様になったんだと。

 

仙次がもうちっとで四つになる秋の事らろも、姉さが裏の川でこうこう(たくあん) を漬けるので、今年採れた大根を洗うていたれば、その後ろで仙次もトンボに糸に付けて飛ばして遊んでいたんだと、そらろも、そのうち飽きてしもて姉さに手繰りついて来たんだと。

 

そん時「あ・ばしゃ~んと」音がして仙次が川の中に落ちてしもうたんだと。

たまげた姉さは、「あーどうしょうば、仙次が川に落ちたー」としゃぎり声出して叫んだろも、だーれも来てくんねもんで、川に飛び込んだんだと姉さが夢中で仙次をだきあげたれば、ほんにうめことに秋の水のすくね時で、川が浅そうて姉さの背が立つたんで無事仙次は助かったんだと。

 

泣きじゃくる仙次を抱きかかえて岡に上がった時、

仙次が急に泣きやんで「母さ後ろになにか出てる」て言うたんだと「何したってか・・」と後ろを見たれば、姉さん尻からでっけい尻尾がぶらーんと下がっていたったんだと。

「おこどうしょば、大変な事してしもた」

実は、姉さはきつねの娘っこだったんだと。

優しくて働きもんのあんにゃさを毎日見てて、あの嫁さんになりたいと思ったんだと、親諸に話したれば狐の掟の話をして聞かせてくれたんだと。

 

「それだば、化ける時に使う宝珠を置いていけ、一度化けて人間の前で尻尾を出したら二度と 元の人間の姿に戻れねえ、その時は人間の世界にもきつねの世界にも戻れねいが、それでもええか」

 

きつねの娘っこは、泣き泣き納得して許してもろた事を思い出していたんだと。

姉さの身体がだんだんきつねの姿に戻っていく、だども、どうしょうも無かっただと、きつねの娘っこに戻った姉さは、もう一度仙次を抱きしめると、「父さとなかよう暮らせ、きつねの子だといわれねように、いい子にするんだぞ」と言うとコーンと一泣きして、目に涙一杯貯めてて、阿賀野川の土手の方に向かって歩き出したんだと。

 

その日は、夕焼けがやたら真っ赤の日での何度も何度も、仙次を振り返り振り返ってはまた立ち止まり、きつね姉さがまた「コーン」と悲しげに泣いたんだと、あんにゃさが田んぼから帰ってきて、仙次からととらぽとらの話を聞いての、大体の事は分かったろもどうしょうも無かったんだと。

そらろも村の衆は、何で姉さが居のうなったのかはだーれも分からねかったんだと。

それから狐に戻った姉さは、木の陰や草の陰から仙次親子をいつも見ていたんだと。

仙次が風邪ひかねか、腹すいてねか、米や野菜の出来はどうか、何時もいつも心配して見てたんだと。

 

仙次がしかもか大っきなった秋の事、稲刈りしてはざにかけて、明日にでも稲こきしょうかと思ってたてがんね朝方かせ急に雨が降ってきてしもた。

たまげたあんにゃと仙次がはざ場に行ったれば、稲がどうした訳か一晩のうちに家の中の庭に全部雨にぬれので山のように積んであったと。母さが来てくれたんだと二人がひんど喜んだと。

仙次は小ーせ時、ちーと口元がとがっていて目の色もちーと違うていたったていれも大人になるにつれいい男衆になり、父さと二人一生懸命真面目に野良仕事をして、親孝行のいい息子になったと。

 

大人になった仙次に村の衆が「おめえ、母さの顔分かるけぇ」と聞いたれば、仙次は「切ない時、 朝川へ行くときまって母さの顔が見えた、おら、大っきなるまで何度も見た」と言うてたったと。