訪れるlandmark

【昔話】おさんきつね

昔々、阿賀野川の両岸に、二匹のキツネが住んでいました。

下里のキツネを伝十郎、向こう岸の焼山に住んでいるキツネをおさんと言いました。

その頃の阿賀野川は、暴れ川で、一度洪水になると川の流れが、大きく変わりました。
焼山は、今と違って、阿賀野川の向かいにあったのです。

この二匹のキツネは、たてそう化けるのが得意で、しばしば人に化けては、渡し船に乗り、お互いに逢いに行くのでした。今日も、船着き場のやぶでくずの葉を頭に載せ、女の人に化けると、船に乗り込みました。そして、向う岸につくと、隙を見てキツネに戻ってさっさと飛び降りました。

船頭は、客の数が乗った時と、降りた時と違うので「またキツネにやられたか」 と悔しがりました。

こんな事もありました。
伝十郎とおさんは、お腹がすいたので、刺し網の仕掛けてある京ヶ島に出かけました。

漁師の船の中を覗くと、既に、鯉が二匹、鯰が一匹入っています。
「しめしめ、みてろ・・」伝十郎が、呪文を唱えると・・・

突然、漁師のミノに付いた雨のしずくが、ボワーッと光り出しました。
漁師はびっくり仰天。「ヒェーッ、キ、キツネの仕業だな魚欲しけりゃ持っていけ」 鯉二匹を藪に放り投げると、光は、フッと消えてしまいました。「うまくいきましたね」「こんなものよ」

またある時、下里のおはつと言う人が、居なくなったので、村中で探したところ、 田んぼの墓地でぼんやり立っていたそうです。
聞けば、長者殿のおっかさが、現れ、栗拾いに行こうと言うので付いて行き、 田んぼの墓地で栗を拾いながら、そのまま三日も居たとの事。

「伝十郎とおさんが、栗を食べたくておはつを化かしたに違いない。」 村人は、そういって噂し合いました。

こんな風に人間を化かしたりしながらも、おさんと伝十郎は、この地で 穏やかに暮らしていました。


ところがある朝、おさんは騒がしい音に目を覚ましました。何事か行ってみると 人間が大きな橋を作っていました。やがて橋が出来、そこを煙を吐く 真っ黒な怪物の様な機械が走り出しました。「何だろう」 その怪物は、向う岸の伝十郎の巣穴の辺りを通ってます。

一方、伝十郎は毎日、凄まじい音に悩まされていました。
「ポーポポポポ・・「シュ、シュシュシュー」
上から、下から黒やら白やら煙りを吐き吐き走っていきます。
もう、うるさくておちおち眠っても居られません。

それからまた、何年か経つと、今度はおさんの住む焼山の後ろで工事が始まりました。
村人の話を盗み聞きすると、新しい阿賀野川を掘って川を真っ直ぐにするのだそうです。

近くまで行って確かめると、川を掘る機械か゜ぐるぐる回ってみるみるうちに、 川が出来ていきます。

程なくして、新しい阿賀野川が完成し、昔の阿賀野川は三日月湖となりました。
沢梅から農家の人達が引越してきて、畑と茅場だけだった所に集落が出来ました。

「景色がどんどん変わっていき」「何だか、騒がしいな。狩もやりづらくなったし・・」

おさんと伝十郎は、そう話し合いました。とはいえ、この工事のおかげで 二匹の住む焼山と下里は陸続きになりました。

周りのキツネ達の勧めもあって、 おさんは、伝十郎の元へ正式にお嫁入りする事になりました。

それは、おぼろ月夜の春の夜でした。村中のキツネ達が集まっておさんのお嫁入りが 行われました。

三日月湖には、今夜だけは、二つの満月が映っています。
おさんは、月の光に照らされて、それはそれは美しい花嫁でした。
お嫁入りしたおさんは、毎年三匹の子キツネを生んで育てました。

処が、ある年、何故か一匹しか生まれませんでした。おさんは、いつもにもまして、その子キツネを 可愛がりました。

ところが、ある日ちょっと目を放した隙に、子キツネがあの走る怪物 の方に野鼠を追って急に走り出しました。

「危ない!」ひっしに叫ぶおさんの声は届きません でした。子キツネは跳ねられて二度と目を開ける事はありませんでした。

その頃から下里辺りの線路で美しい娘が立って汽車を止めるというのです。
汽車が止まると娘の姿はフッと消えてしまいます。度々同じ事があるので機関士達は キツネの仕業だと噂し合いました。

ある星の無いくらいの夜の事でした。線路の上にいつもの様に若い娘が現れました。 機関士は慌てて汽車を止めようとしました。
けれどその日に限って機関士は考えました。「どうせ、またキツネの仕業だろう。
なあにぶつかる前に姿を消すさ」とそのまま汽車を走らせました。

しかし、若い娘は、汽車が間際に迫っても消えませんでした。キッと、汽車を 見据えたまま立ち続けていました。「危ないぞー」機関士は、思わず叫びました。


汽車が通り過ぎて行った後には、キツネが一匹横たわっていました。おさんでした。

これを聞いた下里の人達は、以前子キツネが汽車に引かれて死んだ事を思い出しました。

「身体を張って抗議していたんだな」「子キツネの元に行くつもりだったのかもしれない」 人を化かして、悪さもしたけど田畑の鼠を取って作物を守ってくれた。

子を思う親心をあわれに思い村の人達はその亡骸を手厚く葬ってあげました。

おさんが死んだ事を、伝十郎は知りませんでした。帰ってこないおさんを、心配して 伝十郎は、毎日食事もしないで探し回りました。

空腹でふらふらになった伝十郎。


ある日目の前に鴨が飛んできたので「しめた」とばかりに飛び掛ると「ダーン・・」 鉄砲の音が響きました。何日か経って、嘉瀬島の大きな土管の中で、死んでいる

伝十郎が見つかりました。その傍には、キツネのカミソリ花とも呼ばれる マンジュシャゲの花が、赤く咲いていました。

お彼岸の頃、夕焼けに赤く染まった西の空に、抱き合うようにして、一際赤く光る 三つの星があります。それは、伝十郎とおさんと子キツネの星なのです。

一番高い左の星が伝十郎、その右少し下の星がおさん、その間の小さい星が子キツネ。

もう、離れる事のないことを知っているのか、見る人を幸せな気持ちにさせてくれます。

あなたも、一度、探してみてください。運が良ければ、見つかると思います。